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トラックジャーナリスト中尾真二の「トラック解体新車」
ドライバーにも経営者にもうれしい新型クオンの変わったところ
2017年4月12日 新車発表会
新型クオンが従来モデルから大きく変わったのは、シフトレバーが乗用車のAT車のようなIパターンになったことと、全輪にディスクブレーキを採用したことの2点だろう。
しかし、新型で改良または追加されたポイントは他にもある。その中から、ドライバーやオーナーに直接関係する特徴をピックアップして整理したい。
●エンジン・環境性能が向上
新型クオンのエンジンは、11リッターのGH11をチューンして馬力・トルクともに向上させている。さらに、インジェクションシステムとピストンヘッドの形状を工夫する(ウェーブヘッド)などによって、燃費・環境性能も向上させている。そのため、平成28年度排出ガス規制をクリアし、重量車燃費基準は+5%で達成している。
自動変速トランスミッションもESCOT-VからVIへと進化し、制御CPUのリアルタイム処理をより高速にし、素早くきめ細かい制御、変速を可能にした。ESCOTロール、アクセルリミッターなどの燃費を最適化する支援制御も進化しており、燃費・環境性能向上に一役買っている。さらに、GPSと連動した「フォアトラック」(先読み機能)も新しく追加された。フォアトラックは、一度走行した道の勾配などを覚えており、クルーズコントロール走行時(60km/h以上)のアクセル操作や補助ブレーキ操作を最適化制御してくれる。
類似の機能で、地図情報を利用して初めての道でも類似の制御をしてくれるシステムもあるが、クオンのフォアトラックは地図情報に依存しないので、地図更新の必要がないメリットがある。
●ESCOTに任せるとスムースな走りが可能
燃費向上はトラックオーナーや経営者にとっては大きいメリットだが、ドライバーにとってはエコモニターを見る以外、その効果は体感しにくいものだ。しかし、ESCOT-VIによる運転支援や自動変速の良さは、乗れば体感できるだろう。ESCOT-Vでも十分スムースだったが、VIでは発進、加速、減速のどのシーンでもさらに違和感のない制御をしてくれる。
ドライバーによっては、ESCOTのような自動変速機の制御は自分の運転とシフトアップポイントのと違いに違和感を感じるかもしれないが、じつはクオンの制御にまかせて運転してみると、加速もそれほど変わりなく、減速も無駄な動きがないことに気づく。シフトアップは状況によって、3速から5速、7速とステップ変速をしてくれるし、ギアチェンジがスムースなため加速に無駄がない。減速も、アクセルオフやESCOTロールからのブレーキングで、適切なシフトダウンや補助ブレーキのアシストなども自動で入る。
ギアチェンジはESCOT-VIに任せて、ドライバーはハンドル操作とアクセル・ブレーキ操作に集中すればいいくらいだ。半面、マニュアルモードでギアを細かく操作するには慣れが必要かもしれない。マニュアルモードはシフトレバーを一番手前まで倒してシフトノブの+、-ボタンを親指で操作する(か、ドライブモード時にシフトボタンを操作する)。
●泥濘地に強いオフロードモード
ESCOTは、いわゆるトルコンではない。マニュアルトランスミッションと同じ乾式クラッチを電子制御でつないでいる。そのため半クラッチのような制御も可能だし、車が少し動いたらすぐにクラッチを切ってトルクを抜くこともできる。
ESCOT-VIでは、この制御を応用して、泥濘地での走行や轍にはまったときの脱出をアシストする制御も加わった。雪道や泥濘地ではタイヤがスリップしてもそのままトルク伝達を維持したいときに使える「オフロードモード」だ。
クラッチをつないで、車が動き出したらすぐにクラッチを切ってトルクを抜く制御も可能になった。この制御を轍にはまったりしたときに使うと、車を前後に揺らして脱出することが可能だ。ダンプやミキサー車では有効な機能だろう。
このクラッチの微妙な制御は、カーゴ車でもプラットフォームに着けるときの微速後退などでも利用できる。トルコン特有のクリープ現象に近い動きが可能になる。
●ディスクブレーキで軽量化+安全性向上
クオンは大型トラックには珍しいディスクブレーキを新型から採用した。ドラム式ブレーキとのフィーリングの違いを気にするドライバーがいるかもしれないが、これはすぐに違和感はなくなるだろう。トラックドライバーとて、乗用車の4輪ディスクブレーキの経験はあるだろう。踏力に対してリニアな効きを見せるディスクブレーキは慣れれば操作しやすいはずだ。とくにディスクブレーキならば、減速しながら最後に「カックン」となって停止する動きはなくなる。
ディスクブレーキはフェードにも強く、長距離でも安定した制動が期待できるのも特徴だ。また、ドラム式ブレーキより軽いので、最大積載量を増やすことができる。軸数にもよるが最大で200キロも積載量が増えるという。総重量だけでなく、バネ下荷重も軽くなるので、運動性能や燃費性能の向上にも寄与しているはずだ。
●架装しやすいフラットフレームとフェリーモードがあるエアサス
現場で役立ちそうな機能は他にもある。例えば、新型クオンのリアフレームは補強構造やメンバーが特殊なリベット接続されており、上面に突起やボルトが出ていない。そのため、架装の自由度が増す。
リアのエアサスは電子制御が可能で、ウィング車の横からのフォークリフト作業をやりやすくしたり、荷物の偏りを調整する「片荷調整機能」が備わっている。フェリーなどで車体や荷台の揺れを抑えるため、エアサスの空気を抜くこともできる。空気の再注入も運転席のボタン操作で可能だ。
細かいところでは、運転席センターコンソールのカップホルダーには、エアコンの吹き出し口もついている。ドリンクの保冷、保温が可能なこのアクセサリーは新型クオンにも残っている。さらにうれしいのは、12Vのシガーソケットが追加されたことだ。乗用車用のさまざまなカーアクセサリの電源として使えるので便利だ。
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プロフィール
中尾 真二
IT系技術書の企画・編集を経て2003年にフリーランスとして独立。
自動車関係では、パワートレーン、サスペンション、タイヤ、用品・部品関連技術の記事を中心に、主にウェブ媒体向けの取材・執筆活動を行っている。
専門は、ADAS、自動運転、AI、クラウドサービス、セキュリティなど、IT関連のバックグラウンドを生かした記事。 -
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