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トラックジャーナリスト中尾真二の「トラック解体新車」
トラックもEVの時代か:三菱ふそう eキャンターはどんな車か
2018年4月27日 試乗
●トラック業界でも進む電動化戦略
4月に日野自動車とフォルクスワーゲン商用車部門の提携が発表された。日野自動車はトヨタと資本関係があり、トヨタはフォルクスワーゲンとグローバルでシェアを争うライバルだ。バス・トラックに関する提携とはいえ、違和感があるが、日野自動車側は「トヨタとの関係は変わらない」として、トヨタもとくに問題視していない様子だ。
その直後、ボルボ・UDトラックスが中型EVトラックの市場投入を発表している。EVトラックで先行するダイムラー・三菱ふそうは、キャンターベースのEVをポルトガル、ドイツ、日本で実用投入済みだ。実験中の車両を含むとイギリス、北米でも「eキャンター」は走行している。採用しているのは、ドイツシュツットガルト市(公園整備・資材運搬)、DHL、ヤマト運輸、セブンイレブン・ジャパンなどだ。
ゼロエミッションのEVは、音も静かなので早朝・夜間でも市街地での走行、作業の規制がないなどメリットが多い。一定の航続距離があればルートを限定しやすい配送車は充電器の問題も大きくない。いまのところ導入コストは高め(車両価格・充電設備)になるが、メンテナンスと燃料代(電気代)は確実にコストダウンできる。三菱ふそうによれば、一般的な燃料代は、軽油約17円/kmのところ電気だと13円/km程度だと試算する。補助金やリースなどを使えば、トータルでもコストメリットが期待できるレベルになりつつある。
トラックもいよいよEV化の波が訪れてきたといっていいだろう。
●市販EVトラックの実力
とはいうものの、一般のドライバーにしてみたら重い荷物を運びUNICやらローダーやら保冷カーゴやらの架装も必要なトラックにEVはありえないと思いがちだ。しかし、トルク性能だけみたらモーターはガソリンは当然としてディーゼルエンジンより高いものは珍しくない。架装にしても、モーターの効率は内燃機関の比ではないので、あまり問題にならない。冷凍車など熱交換器は負荷が大きいが、セブンイレブンが採用したEVトラック(eキャンター)はほとんどが保冷車だ。バッテリーの容量さえ要件を満たせば、これも大きな問題にはならない。
スペック的なEVの特徴は他にもあるが、やはりその評価は運転してみないとわからない。筆者は、eキャンターが「eCELL」と呼ばれていた実験車両から何度か試乗している。昨年正式に市販が開始されたeキャンターも、三菱ふそうのテストコースで試乗している。
最初はエンジン始動やアイドリングの振動・音がないので違和感があるかもしれないが、スタートボタンを押して、インパネがONとなりインジケーター類が正常ならば、シフトをD(前進)に入れて、パーキングブレーキを解除(自動解除なので省略できる)、アクセルペダルを踏めばスルスルっと走り出す。乗用車でもEV、PHVを運転したことがあれば、操作は同じだ。
走り出してまず感じるのは、エンジンに負けないトルク感だ。試乗車だったeキャンターには4トンの重りが搭載されていた(8トン車のほぼ最大荷重)が、荷物の重さをまったく感じない。8%と10%の上り勾配もトルクは衰えることはない。もちろん、アクセルの開度が一定だとだんだん速度は落ちてくるが、そんなときでもシフトダウンなしでアクセルをちょっと踏み足せばすぐに反応してくれる。フル積載で10%勾配の途中から加速もシフトチェンジなどなしにスムースに加速していく。
そもそも、一般的なEVは機械的な変速機構は持たず、バッテリーの直流電流を交流に変換するインタバーターが同時に出力制御を行う。速度制御はもっぱらアクセル操作で行えるのが特徴だ。
●エンジンブレーキは回生システムが代替
しかし減速は、いわゆるエンジンブレーキがないのでフットブレーキに頼ることになる。筆者もそうだが、古い世代はエンジンブレーキによる減速Gがないとどうも安心できない。EVの場合、エンジンブレーキや補助ブレーキに相当するものは回生システムだ。モーターはそのままで発電機にもなるので、下り坂や惰性走行時にバッテリーからの電力供給を止めてモーターに発電させてやれば、タイヤの回転エネルギーを電気エネルギーに変える分のブレーキ力が発生する。同時に発電した電力をバッテリーに戻してやる。
eキャンターの場合、回生システムは自動制御されており、適切なタイミングで回生制御が行われるが、補助ブレーキと同じ位置に取り付けられたレバーで、手動で回生ブレーキを動作させることができる。
試乗車では、このレバーを補助ブレーキと同じように操作できた。減速Gは感じられるものの、個人的にはもう2段階くらい切り替えがほしいところだ。回生ブレーキを強くするればそれだけバッテリーの回復も大きくなる。電費向上にもつながる。三菱ふそうによれば、これ以上減速を強めるとブレーキランプを点灯させなければならないから、回生効率を抑えているのだそうだ。好みの問題かもしれないが、大型トラックのように4段階くらいにして3段目と4段目はブレーキランプを点灯させるようにして回生ブレーキを強くしてもいいと思った。
加速性能もテストしてみたが、4トン積載の状態で80km/hまでの加速もストレスなくほぼリニアに加速していく。しかもエンジン音がしない加速は最初は戸惑うかもしれない。これも開発者にいわせると、実験段階のeCELLよりもインバーターの制御は抑えているという。最高速度や加速性能はインバーターのプログラム次第でいかようにも調整できるが、あまりピーキーにすると危険であり、荷物にも影響がでる。航続距離も短くなってしまうので、プロトタイプであるeCELLより出力は抑えてあるという。
●出力はディーゼルキャンター以上
最後にスペック情報を整理しておこう。
eキャンター主要諸元:
車両総重量:7.5トン
キャブ幅:2,000 mm
ホイールベース:3,400 mm
最高速:80km/h(当面は市街地走行を前提とするため)
バッテリー性能:13.8 kWh x 6 = 82.8kWh
モーター出力:135kW
登坂能力:20%
航続距離:約100km / 1充電
充電時間:1時間(急速充電)・8時間(普通充電)
その他:三菱トラックコネクト対応バッテリーはメルセデスのPHV車両のものを流用。ダイムラーグループは、乗用車から中型トラック程度まではバッテリーの共通化を図っていく。モーター出力の135kWは現行のディーゼルキャンターが129kWに換算されるので、スペック的な出力はeキャンターのほうが高い。
航続距離の100kmは少ないといえるが、三菱ふそうでは、まず市販化することが重要であると、ニーズの高い市街地での短距離配送にターゲットを絞って、この性能とした。配送ルートがほぼ固定で1日の走行距離が100km程度なら、充電は車庫に戻ったときに行える。現在、首都圏を中心に主だった販社に10台ほど急速充電器が設置されているという。今後も急速充電器の設置を広げる予定だ。なお、急速充電器はチャデモ対応なので、高速道路のPA/SA、道の駅などの設備が使える。
現状では、公称電費は発表されていないが、トラックコネクトのデータからは、2km/kWh前後はでているという。1kWhあたり2kmとして約83kWhのバッテリーなら165kmくらいは走行可能ということになる。トラックコネクトのデータは実際に各国で走行しているeキャンターのデータなので、実際に荷物を積んでいたり保冷車だったりする。航続距離の100kmは実際の走行で大きくずれることはないはずだ。
三菱ふそうは、2020年には次世代のeキャンターを計画しており、この世代では航続距離などさらに伸ばし実用性をアップし、適用範囲を広げていくという。
関連リンク→ 三菱ふそうトラック・バス株式会社 EーFUSO
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プロフィール
中尾 真二
IT系技術書の企画・編集を経て2003年にフリーランスとして独立。
自動車関係では、パワートレーン、サスペンション、タイヤ、用品・部品関連技術の記事を中心に、主にウェブ媒体向けの取材・執筆活動を行っている。
専門は、ADAS、自動運転、AI、クラウドサービス、セキュリティなど、IT関連のバックグラウンドを生かした記事。 -
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